ECチームのリーダーに求められる資質とは何か?【ヤッホーブルーイング植野さん×坂本対談・前編】

こんにちは、川村です。

今年の年始の代表ブログでも、「中小EC業界の外部環境は本当に激動ですね」という話をしましたが、年始にはまさか今の状況がこんなだとは思っていなかったですよね。
コロナによって、さらに世界が大きく変わることになりました。EC業界全体としては、結果的に売上が上がり成長の追い風になっていますが、商品生産、調達、出荷や配送の面で、今までどおりにいかなくなることもでてきていますよね。今や世界全体で、私たちは正解のわからない道を進むことになりました。

「元々正解なんてなかった」そう言える人って強いですよね。前例のないことに率先して取り組む会社・人は、これから不安の中もズンズン突き進んでいくと思います。
新しい世界を面白がりながら進んでいる人たち・・ということで、みんな大好きなクラフトビール専門の「よなよなエール」のヤッホーブルーイングさん(以下、敬称略)に対談をお願いしたところ、ご快諾いただきました。

弊社では数年来、ヤッホーブルーイング社にコンサルティングを通しお手伝いしています。
特に「チームで働いているけど、どうも上手く分担できず回ってない、あるいはリーダーとして頑張りたいけど自信がない・・」という方の参考にしていただける対談になったと思います。ぜひお読みください!

※この対談自体は、奇しくもコロナ前に実施されたものです(2020年2月)。

ヤッホーブルーイングと、うえぽんさん(植野さん)について

(画像は、ヤッホーブルーイングコーポレートサイトより)

EC業界ではすっかりお馴染みですが、おさらい的にご紹介しましょう。ヤッホーブルーイングは「ビールに味を!人生に幸せを!」をミッションとした、クラフトビールのメーカーです。

ユニークな製品名に、一度見たら忘れない楽しい絵柄の缶。バラエティ豊かなビールを製造販売しており、製品だけではなく、その取り組みも大胆不敵!

ビールメーカーにしては類を見ない、ビールのフェス?!「よなよなエールの超宴」というイベントを開催。よなよなファンが全国各地から一同に集い、軽井沢の緑の中ビールを飲んで楽しむという、文字通り「すごい宴」を成功させています。私も昨年参加しましたが、圧倒されました。今年は、コロナのためリアルでの開催は見送られましたが、オンラインで「よなよなエールの″おうち”超宴」 が開催されました。

そんなヤッホーブルーイングには、ビールが好きで、仕事に前向きな人たちがたくさん働いています。でも、こんなに勢いのある会社でも、実際に1人ひとりを見ていくと、やっぱり仕事の上での悩みがないわけではありません。成長している会社だからこその勢いとプレッシャーもあり、皆さん(※1)悩みながらもパワフルに前進しています。

今回は、そんなヤッホーブルーイングの「 i・通販団」(通販ユニット)のリーダーで、マラソンやクライミングなど運動大好き、もちろん運動の後は「よなよなエールで乾杯!」という、うえぽんさん(植野さん※2)に、弊社代表の坂本がお話を伺いました。

※1当社は主に、「i・通販団」の皆さんとお仕事をしています。
※2ヤッホーブルーイングではスタッフ全員にニックネームがあり、名刺にも名前より大きく書かれています。そのため、本文中でもニックネームでお呼びしています。

ヤッホーブルーイングの皆さんには、以前、当社にお越しいただき、社内勉強会でお話してもらったこともあります。その時の模様は、こちら。

この記事ではこんな話をします

新任のリーダーが「全く自信がない中、徐々にリーダーとして自分のスタイルを見つけていく」というリアルストーリーです!
ネットショップを運営する会社に勤めていてリーダーになってみたい方、自社のメンバーに「立派なリーダーになってほしいな」と思っている社長さん・店長さんにおすすめです。

  • 前編:新人リーダーが「自分のスタイル」を見つけるまでの話
    • 畑違いの業界からECへ。入社の経緯
    • 「リーダー像」と「素の自分」とのギャップに悩む
    • リーダーは「ガードレール役」でいい
    • 「壁打ち」して迷わず動けるように

来週の後編は、新任リーダーと一緒にメンバーの皆さんが「理由はよくわからないが、なんだか忙しい・・」という中、EC事業の業務効率化に取り組んで、すっきり!「我々はいいチームになったね」と言い合えるまでになったECチームのお話です。こちらもお楽しみに!

新人リーダーが「自分のスタイル」を見つけるまで

畑違いの業界からECへ。入社の経緯

坂本:体制が変わり、うえぽんさんは新リーダーとしてご活躍されています。かなりさかのぼりますが、まずは「うえぽんさんが入社したきっかけ」を教えていただけますか?

植野さん(うえぽんさん):ビール好きだったんで、ヤッホーブルーイングのFacebookをフォローしてたんですよ。前職は別の会社でSEをしていたんですが、「上司の言ったことをやる」ことが是とされる環境で。失敗を避けつつヒットを狙う「安定の3割バッター」的な仕事をしていました。

で、たまたま、ヤッホーブルーイングのfacebookグループに「中途採用します」と投稿があって。募集を見てみると、ヤッホーブルーイングは、みんなが自立して働いてる会社なんだなー!と思って。「ホームラン狙いたい」とチャレンジの気持ちが湧いてきて。「これだ!」って勢いで応募しました。

坂本:なるほどーー。「俺もっと長打を狙えるんじゃないか」みたいな。入社されてどうでしたか?

植野さん:最初はもう不安の塊でしたね、SEからEC業界なので、畑違いだし。「ほんとにやっていけんのかなあ」と。でもいざ入ってみると、みんな凄く優しいし、企業文化として、フラットなコミュニケーションだとか、自ら進んで行動するだとか、みんなほんと地でやってるんで、割とすぐに「来て良かった」って思いましたね。

あと、会社として目指すミッション・ビジョンみたいなものが、ちゃんと文書化されていて。それをみんなが言える状態になってて。前職で抱えていたモヤモヤがなく、「すごくいいなぁ」と思いました。

EC業界でやっていける!という自信がつくまで

坂本:不安は割と早くになくなりましたか?

植野さん:なくなりましたね。でも、「この組織でずっとやっていける」という自信ができるまでは、一年弱はかかりましたね。

坂本:一般的には「聞きづらい、素直に聞けない」職場が多いと思うんですけど、そこは早くクリアされた。その次に一つ壁があったという感じですかね?

植野さん:そうですね。ひとまず目の前の細かい実作業をどんどんやって、みたいな。「これをやり続けて将来自分はどうなるんだろう」というのがあんまり描けなかったし、自分が組織で活躍してる感じがまだ沸かなかったです。

あるとき、カートのリプレイスの仕事が「コレやって~」という感じで割とポンと来て。前職システム系だったので、そこを買われたわけだから、「もうこれはやるっきゃない」みたいな(苦笑)。その時に、ガンガンやっていいんだ、と吹っ切れた感じです。

前職だとガンガンやると、割と「やり過ぎじゃない?」みたいな空気になって、基本、上司の顔色伺ってやらなきゃいけなかったのが、ヤッホーはそれ気にせずにガンガンやれば認められるんだなと。やったもん勝ちなんだっていうのが分かってからは、変わりましたね。

坂本:ブレーキをかけなくて大丈夫なんだっていう。ノーブレーキでノー忖度!

植野さん:ノー忖度。それが入社一年目弱ぐらいの時です。

坂本:本当にいい会社ですよねー!

「リーダー像」と「素の自分」とのギャップに悩む

坂本:最初はいろいろと不安になることもありましたよね。

植野さん:不安だらけでしたね。そもそも、うちは、リーダーになるのは「立候補制」なんですけど、立候補したんです。その後、リーダーになるって決まったわけでもないのに、「リーダーになって自分できるのかなあ、取り下げようかな」って。笑

リーダーに決まった時も嬉しさ半分、不安半分って感じでしたね。当初自分が思い描いてたリーダーっていうのは、もっと強い人。ざっくり言うと「何でもできて、全てのプレイヤーよりも全ての能力が高くて」、みたいな。

坂本:戦隊モノでいう、レッドみたいな感じですよね。ザ・リーダー。

植野さん:そうそう。自分ってそのタイプじゃないから、それになれるかな…みたいな。心は凄く不安でしたね。自分は違うタイプだと思ったとしても、みんなはそういうリーダーを求めるんじゃないかな、そういうリーダーを演じなきゃいけないのかなあと。

坂本:「仮面」を被ってやらなきゃいけない感じ?

植野さん:ですね。自分らしくいれるのかなあみたいな。ヤッホーブルーイングって自分らしくいれる会社だったけど、リーダーになった途端、そうじゃなくなるのかなあっていう不安に潰されそうになりながら。

既にメンバーの中に自分よりも優秀な人がいて、その中でリーダーってどう行動していけばいいの?と。「みんなからすごい嫌われちゃうんじゃないの」とか。ぐるぐると悩んで「無理かも…」みたいな。そういうとこは凄く不安だったんですね。

リーダーは「ガードレール役」でいい

坂本:その頃、私はうえぽんさんの前任のリーダーの方にコンサルティングをしてたんですよね。彼から「植野さんが次のリーダーになるんですよ」って聞いて。そこから、うえぽんさんをサポートすることになりました。初回の打合せの時、話してみてどう思いましたか?

植野さん:
あの時、「うえぽんさんは、ガードレール的なリーダーに向いてそうですね」と言って頂いたのが、もう目から鱗というか、そういう発想あるんだ!って。それ知った瞬間、ちょっとなんか泣きそうになりました。そういう考え方も、そういうリーダーもいるんだなと。

自分の中だけで、勝手になんか「最速のレーサー」でいなきゃみたいに思ってました。自分の見てきたリーダーは、大体レーサーだったから、自分もレーサーにならなきゃいけないと。

坂本:うえぽんさんは「自分はレーサーじゃないな」と思っていた。しかも、自分以外のメンバーの中にも、走れるレーサーが多くいる状態でしたね。

じゃあうえぽんさんの役割は、業績が良い感じになるように、会社やお客さんの安全は担保しながら、メンバーが安心して最大スピードを出すための、「ガードレール」でいいんじゃないかって。リーダーが役割の範囲や大枠の基準を決めて、その中で全力を出してもらう。時々ぶつかられて痛いこともありますが、ガードレールがあることで、皆の安全性が保たれる。

植野さん:「前任者の代わり」をやらなきゃいけないっていう不安があったので、そうじゃない選択肢があるんだなと、それだけで安心しました。「いろんなスタイルがあっていいんだよ」ということに気づかせてくれた。自分なりのやり方を自分で選んでやっていいんだって。リーダーには、そういう選択肢はないと思ってたんで。それがあることを知れたのが、本当に良かったと思います。

「壁打ち」して迷わず動けるように

坂本:うえぽんさんには、この約2ヶ月でいろんな話をしましたけど、特に役に立った、刺さったのはどんなことでしたか?

植野さん:「壁打ち」が、凄くいいなと思いました。コンサルを受けるまで知らなかったんですけど、坂本さんがポロって「一回、壁打ちしよう」って言ってくれて、話してみたら「あっ、こうやって『話しながらやっていく』のってスゴくいいな」って。

坂本:そうですね。ウチのコンサルはみんな「壁打ち」するんですよ。一般的なコンサルは「明確で顕在化したテーマに対して、解決策を提供する存在」ですよね。何かの提案をしたり、代わりになにかをまとめたり。

でも、ウチのコンサルでは、「壁打ち」の対話を通して、その手前の「潜在的なモヤモヤ」を掘り起こすのが重要だと考えていて、むしろ、顕在テーマより潜在テーマのほうが大事だとすら思っています。

植野さん:坂本さんとこうやってやり取りを続けるうちに、それは強く感じています。

坂本:人って「漠然と気になっていること」は、最初はうまく表現できない。ちょっとズレた言葉になることが多いんです。でも、話し相手を置いて「壁打ち」を繰り返すと、思うことを色々しゃべっていうちに、「この辺かな?」っていう角度が見つかるみたいな。その角度で掘っていくと、本当に言いたいことが見つかるという感じ。だけど、それを自分1人でひねり出そうとすると、考えているうちに別の角度になって、迷子になったりするんです。

(つづく)

解説&まとめ

ここからは、うえぽんさんと話をした坂本が、今回の内容について少し解説します。

ヤッホーブルーイングさんへの支援は、元々は「本店とモール店」がメインでした。かなり仕事の幅が広く忙しい様子だったので、2年前くらいから、派生して販促的な支援以外でも、通販ユニット内の業務や運営まわりのお手伝いもするようになったんです。

今回のポイント

さて今回は、新人リーダーが「最初は迷いながら」「一定のプロセスを経て」リーダーになっていくプロセスをお話しいただきました。

要点は、最初「リーダーとはこういう存在(戦隊モノのレッド)」と思っていたのが、実はそうではなく「いくつかのスタイルがあり得る」と気づいた話。

そして、リーダーはー「プレイヤーと張り合うのではなく、プレイヤーが活躍する土壌を作る」というスタンスでもいいと実感できた。楽になった。「思考の枠組み」を変えることができ、肩の荷が降りて、リーダー業務に向かい合えた、という感じでしょうか。

ヤッホーブルーイング社は、一人ひとりの特性を尊重し、メンバー同士の相互理解を促す・・ということをすごく重視されている会社です。チームビルディング・プログラムの全社導入でも有名ですね(私も受講しました)。ただ、そのような会社にあっても、新人リーダーは「リーダーはこうあらねばならない」という思い込みをついつい持ってしまいがちなんでしょうね。ということは、一般的な会社では尚更気をつけないとなぁと思います。

EC業界、チームリーダーあるある

でも、ECチームリーダーの仕事って、実は「学ぶ機会」がないんですよね。
それは、一般的に「ネットショップの組織」は歴史が浅く、急成長するからです。

  • 昔:社長や店長が「アグレッシブにバリバリ指示を出す」、メンバーが「実現に向けて黙々と実行する」
  • 今:会社の拡大とともに、古参メンバーがリーダー昇格。しかし自分のスタイルは「プレイヤーとして黙々と頑張る」のまま。「リーダーなんだけど、メンバーの様子をあまり見ず、社長の考えたプランを、ただ黙々と実務的に・自分が手を動かしてしまう」

ただこれは仕方ないことで、

  • 目の前にいる社長や店長を参考にしようとしても、センスが天才的なのでマネできない。
  • 加えて、歴史が浅いし会社が小さいから「お手本となるチームリーダーが周囲にいない」。

という構造が背景にあります。

チームリーダーの仕事とは?

前述の通り、「自分が成果を出す」ではなく「チームを通して/メンバーを通して」成果を出すのがリーダーの仕事です。
それを実行するために、チームリーダーの役割には「論理」と「情理」の二つの側面があると思います。

論理とは

皆がそれぞれ自由に「自分が大事だと思うこと」を自発的にやったとしても、実はベクトルが散ってしまって、パワーが無駄になる・・ということがあります。

だから、ベクトルが分散しないように、会社として・事業として「目指す方向性」の「大枠」に明示して、そこにリソースを集中してもらうことで成果を出しやすくする。これが論理的なリーダーシップの基本だと考えます(下図)。

ただこれだけだとうまくいきません。筋が通っていることでも、嫌なものは嫌ですw そこで情理です。

情理とは

「皆を巻き込んで納得してやってもらう」「皆で主体的に関わっていく」「お互いにお互いの特性を理解する」ように促すのが、情理のリーダーシップです。

心理的安全性とか(※)。チームビルディング研修を受けた方はよくご存知かと思います。せっかちな創業社長が後回しにしがちなやつです。いやー書いてて耳が痛いw

そして、組織は、論理と情理の2つのバランスが取れている必要がある。

ヤッホーブルーイングさんの場合は、元々メンバー同士の関係性がいいし、元々コミットレベルの高い人が集まっているという前提があるので、情理面はバッチリかなと。だから、「役割や業務の定義、学びの言語化」といった論理面のマネジメントでお手伝いして、多少お役に立てたかなと感じています。まあ、私はちょっとお話しただけで、うえぽんさんや皆さんの成果ですけどね!

※余談:(チームビルディングの講師をしている)仲山さんやアキラさんがたまに言う話ですが、心理的安全性って、実は「仲良くなること」ではなくて、「『耳障りでも言いたいことを言える』安全性」なんですよね。

みんな仲良くて、自発性があっても、相手に強い要求を言いづらいな・・言いたくないな・・と思うようであれば、それは、心理的安全性が「低い」状態ではないかと。関係がよくなれば「強い要求(ex.もっと○○してほしい!)」を言える。そうやってお互いに高いレベルを要求し、実行を約束し合える「強い関係性」こそが事業を育てるんじゃないかなーと思います。

次回予告

さて後編。次は、ますます面白い話です!

新任リーダーうえぽんさんとチームの皆さんが、「仕事は大好きなんだけど残業が多くて、なんか何となくずっと忙しいままでなんかモヤモヤ。スムーズに進まないな」という状態から、業務効率化を達成して、メンバーの口から「自分たちは業務を把握できていて、お互いフォローもできるから、良いチームだなぁ」とお互い自然に言い合えるようになった、業績も他部署からの評判も良い感じになった!

その変化の過程について、解説して頂きました。

うえぽんさん、つい先ほども別件で打ち合わせをしたんですが、すっかりチームリーダーとして慣れた感じで。「みんなで上半期の振り返りをしていて、こういう話が出ていて・・」などと分かりやすく教えていただきました。まだ着任して半年なのに!素晴らしい。

ということで、後編もご期待ください!後編はこちら↓

P.S.

私達のコンサルは「EC経営コンサルティング」といいまして、「とりあえず何でも聞ける相手(コンサル)」として、何でも相談に乗っています。その中で、店長候補やマネージャーへの支援・育成・応援係として、依頼されることもよくあります。詳細は以下のページをご覧ください。お問い合わせもご気軽にどうぞ!
※事業やテーマの規模が大きい場合は、今回のように弊社役員がコンサル参加する場合もあります。

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この記事を書いた人

川村 トモエ
コマースデザイン株式会社 取締役 コピーライター/コンサルタント
ライターからEC業界に転身。商品コンセプト立案やキャッチコピーなど「売れないオリジナル商品」の立て直しを得意とし、ヒット商品を多数企画。中小規模の店に対してわかりやすいコンサルティングを提供しつつ、講演や寄稿も行う。黄色本・マンガ本の著者でもある。
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