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「デスクワーク」と「工場の流れ作業」の違い
まずはじめに、「メンバーの仕事が見える」とはどういう状態なのか、「デスクワーク」と「工場の流れ作業(ベルトコンベア)」を比較しながら、考えてみたいと思います。
デスクワークの場合
今や、いろんな会社で、リモートワークが当たり前に取り入れられるようになりましたが、リモートか否かに関わらず、そもそもデスクワークは、チームの仕事が見えづらい構造になっています。
というのも、みんなデスクの前でパソコンを見つめながら、カチャカチャ仕事をしているから、他の人が何をやってるかよく分からない…。よって、以下のような状態になりがちです。
- 仕事の流れが見えない
- 誰が何をやってるのか見えない
- 人の忙しさが見えない
これでは、助け合いのしようがありませんよね。「どこをどう改善すれば、業務効率がよくなるか」が見えてこないという問題も生まれてきます。
しまいには「アイツ、本当に仕事してんのかよ」みたいな感じになってしまうケースもあります。
工場の流れ作業の場合
工場での場合はどうかというと、ベルトコンベアを想像してみて下さい。誰が何をやってるかが、割と明白です。
例)おにぎり工場の場合 お米が流れてきます。 ↓ 機械に入ったら、お米は炊かれて、ご飯になって出てきます。 ↓ 海苔が流れてきます。 ↓ 鮭が流れてきます。 ↓ 鮭ほぐします。 ↓ ガッチャンコして「鮭おにぎり」になります。 ↓ ラッピングします。 ↓ 出荷されていきます。
このように、各工程にお米係、海苔係、鮭係、ガッチャンコしておにぎりに仕上げる係…みたいな感じで分担があり、ベルトコンベアに人が張り付いて作業しています。
つまり、工場の場合は、人と人との協力関係が目に見えるんですね。
ベルトコンベアにのっていると、「時間の流れに添って、順番に誰が何をして、その仕事が完成していくのか」がよく見えるようになります。
デスクワークと反対の状況ですね。
デスクワークを見える化する「バーチャル工場マップ」
さて、ここから本題に入ります。デスクワークの「見えない」問題をどうにかしようということで、今回テーマに取り上げるのが、「バーチャル工場マップ」という考え方です。
バーチャル工場マップとは?
「バーチャル工場マップ」は当社の独自用語ですが、実は元ネタがあります。「トヨタ生産方式」と呼ばれるトヨタの工場管理の方法論の中に、「バリューストリームマップ*」という作業工程の流れを図解する考え方があって、そこから着想しました。
トヨタの場合は工場ですが、デスクワークこそ「誰が先に何をやって、その後誰が何をする」という流れを可視化することが大事ですよね。そこで、「バリューストリームマップ」を、デスクワーク向けに、中小の会社でもやりやすい形に簡略化してみました。
「工場のベルトコンベアのように、デスクワークの流れを図解する」をテーマに、考案したのが、この「バーチャル工場マップ(仕事の流れ図)です。
*バリューストリームマップ
トヨタで「物と情報の流れ図」と呼ばれるツール。英語では「Value Stream Mapping(略 VSM)」。前の工程と後の工程を流れで捉え、どんな物と情報が流れているかを図式化することで、全体の状況を把握することができ、さらに問題が起こっている工程や改善点を見つけることができます。ちなみに、今回の話には直接関係しません。インターネットや書籍など、色々情報が出ていますので、気になる方は調べてみてください。
バーチャル工場マップのメリット
図の右上にもありますが、「見えづらいデスクワーク」が見えるようになるのが「バーチャル工場マップ」のメリットです。
Aさんが入荷した商品の写真を撮って、商品情報をデータ化してシステムに入れる。 ↓ Bさんがシステムに入ったデータをCSVに加工する ↓ CさんがCSVデータを楽天にアップロード/更新作業をする ↓ DさんがCSVデータをアップロードした後に、〇〇業務をする ↓
このように、扱っているモノは「情報」や「データ」ですが、それらを「加工しながら、次の人に渡していく」という動き方になります。先ほどのおにぎり工場と同じですよね。つまり、情報が加工されていく過程を図で表現してみましょうというわけです。
実際のオフィスの人員配置で考えると、似たような仕事をしている人は、何となく近い場所に座っていることが多いですが、作業工程とデスクの配置が一致しているわけではなく、実際の作業の流れが目に見える状況ではありません。
しかし「バーチャル工場マップ」があれば、無理にデスクの位置を変える必要はないのです。なぜならこの図解があれば、工場のように「誰がどんな仕事をしているのか」、「誰の仕事と誰の仕事がつながっているのか」が見えるようになるからなんです。
図解のポイント① 作業を書き出して、ざっくりと人を配置していく
サンプルの図解では、左から順に作業が流れていくように描かれています。ただ、当然ですが、作業内容や流れは部署によって違ってきます。
<例:製造・仕入れ担当>
- 商品が届いたら入庫検品をする
- 倉庫に収納する前に写真撮る
- 商品のデータを入力する
- サイズやカラー…販売する為の情報をさらに追加入力する
このように商品を管理し、情報を入力していく部署がある一方で、モールや本店担当がいたりしますよね。
<例:モール・本店担当>
- 「商品マスタができた」と他部署から連絡を受けて、社内のEC用のシステムにデータを置く
- 本店用、楽天用、他モール用に、データを加工&アップロードする
- 販売終了や価格変更でデータを更新する
こうした業務の他にも、後ろに売上をアップするための企画を立てる人がいたり、メルマガ係がいたり、SNS係がいたり、Youtube係がいたり、ブログ係がいたり、商品ページ作る係がいたり、コピーライティングする係がいたり、バナー作る係がいたり…たくさんの業務が連なっている場合もありますよね。
そこで、いったん業務を書き出して、それぞれの係(担当)を「大体この辺かなあ」っていう風に配置していきます。モールチームと本店チーム、販売チームとコンテンツチーム、ECチームと実店舗チーム….という風に、チームをザックリ分けながら、チーム内で誰と誰がどうつながっているのかを図解していくような感じです。
新メンバーの追加や配置換えがあった場合、たびたび人員が変わってしまうことになるので、人員配置については、あまり細かく考え過ぎなくても大丈夫です。例えば、サッカーやバスケの試合前によくあるワンシーン。小さいホワイトボードにマグネットで、「君、この辺にいて」「君はこっちにいてね」という感じで、ポジションを説明したりしますよね。配置についは、あれぐらい頻繁に入れ替わるものだと想定して、ラフに書いていきましょう。
図解のポイント② 前後関係を意識する
このように図解していくと、「〇〇さんが…の仕事をしてくれるおかげで、自分はこの仕事ができるんだな」という風に、業務の前後関係が明確になります。この前後関係を「前工程」と「後工程」といいます。
ちなみに、元ネタのトヨタの考え方では、「後工程はお客様」といいます。
これはどういうことかというと、前工程の人は後工程の人に「どうぞ」と自分の成果物を渡しますが、その時に意識することを表しています。
例えば、前工程の人が後工程の人に「CSVデータができたからアップロードしといてね、よろしく」と言って渡すとき、前工程の人は意識的に、「後工程の人は自分にとってのお客さんだから、お客さんが満足いくように、作業しやすいデータにして、ミスがないか確認してから渡してあげよう」と考えます。これが、「後工程はお客様」という意味です。
また、「前工程は神様」という言葉もあります。これは、後工程の人が前工程の人から仕事を受け取る時に意識すること。後工程の人は「前工程の人の成果物があって、そのおかげで仕事ができる訳だから、ありがとうと思いながら受け取ろう」と考えます。
つまり、「お互いに感謝し合いながら、やっていこう」という教えです。
前工程・後工程は、もともと工場での話ですが、デスクワークの場合も同じです。
渡したデータに抜け漏れやミスがあったために、二度手間になってしまうのはお互いに不幸ですよね。だから、意識的に、相手にとって仕事がやりやすい状態になっているかを考える。「このデータ、分かりやすいですか?」とか「もうちょっと、こちらでやれることはありますか?」と相手を思いやる習慣をつけておけば、いい感じに助け合いができるようになっていきます。
「バーチャル工場マップ」を賢く活用するには?
「バーチャル工場マップ」で前工程・後工程の位置関係が明らかになると、「自分の後工程は誰か?前工程は誰か?」というのが、より明確に意識できるようになります。
そして、前後関係がわかった上で、この図解を見ながらお喋りすると、自然と助け合えるようになるだけではなく、全体の流れの中で「ここが穴だね」といったことも分かるようになるのです。こうしたメリットを得るには、「バーチャル工場マップ」をみんなで共有して活用することが大事です。
大きく印刷して、壁に貼る
バスケやサッカーで、ホワイトボード上でマグネットを使いながら、ポジションについて話すのも、お互いの動きをきちんと把握し、より動きやすくするのが目的ですよね。それと同じように、「バーチャル工場マップ」もチームワークを発揮するために使いましょう。
せっかく「バーチャル工場マップ」をつくっても、パソコンの中にデータとして置いておくのでは、その存在を忘れてしまいそうですよね。ふとした時にもみんなの目に入るように、大きいサイズに印刷して壁に貼っておくとよいでしょう。
図解を見ながら、朝礼する
「バーチャル工場マップ」を壁に貼って、この図解を見ながら朝礼や定例会議をすると効果的です。例えば、以下のような流れで会議を進めることができます。
司会:「朝礼を始めます。この流れ図の左の担当の人から順に、今日やる予定の仕事を言ってください」
Aさん:「新しい商品が入ってきたので、すぐにデータ化します。明日にはBさんに渡せるように準備しておきますので、よろしくお願いします」
Bさん:「Aさん、了解です。では、私は明日データをもらったら...していきますね。今日のところは...作業をしておきます」
このような感じで進捗や予定を共有できると、チームワークが可視化されて、自然とスムーズな連携になるのではないかと思います。
ボトルネックを見つけて、フォローする
全体の流れが可視化されて、それがみんなに浸透していくと、ボトルネックになっている工程も明らかになります。
「全体の流れで、ちょっとここが手薄だね」
「Bさんがやってるこの作業って、Bさんの負担が大きすぎるよね」
こうした気づきがあることで、ボトルネック工程の手前の人や後の人が、色々と考えて助け舟を出せるようになります。
「Bさんの作業が、もうちょっとスムーズになるように、前工程や後工程でやってあげられることはないかなあ....」
Aさん:「分かりました。じゃあ、Bさんがやりやすくなるように、ここまで加工してから渡すようにしますね。」
Cさん:「Bさんはたくさん仕事抱えてるから、ここまでBさんがやってくれれば、あとはこちらでやるように調整してみましょうか。」
ボトルネック工程の前後にいる人たちから、それぞれ自発的なアイディアが出て、お互いに助け合うことで、全体の作業の流れもよりよい方向へ向かうようになります。
まとめ
例えば、おにぎり工場で作業が詰まっている人がいて、海苔とお米と鮭が山積みになっていたとしたら、きっと隣の人は「どうしたの?大丈夫?」って声をかけますよね。
でも、デスクワークの場合は、どれだけ仕事が詰まっていても、隣からは見えません。だからこそ、取り入れていただきたいのが「バーチャル工場マップ(仕事の流れ図)」なのです。
工場のように仕事の流れを明らかにすることによって、デスクワーカーのみなさんも、きっとお互いに支援しやすくなると思います。
チームワークを向上させるツールとして、日々の朝礼や定例会議で活用していただけると幸いです。
P.S.
実際、チームワークをよくして、業務効率をあげていきたくても「何から手をつけていいか分からない」、「何がボトルネックか分からない」と二の足を踏んでいる方は多いものです。しかし、もやもやを抱えているばかりでは、時間の経過とともに解決すべき問題も風化して、打ち手が見えなくなってしまいます。
まずは、最初の一歩を踏み出して、着実に改善へと向かいませんか?私たちは、悩んでいる方が自ら問題点を見つけて、前に進んでいけるように、業務の整理や優先事項の洗い出しなどもお手伝いします。
ご興味がある方は、ぜひ以下のページをチェックしてみてください。
この記事を書いた人
- 槐と書いて「えんじ」。埼玉出身。10年以上EC業界に在籍し、アパレル/美容雑貨/ベビー用品など様々なジャンルを経験。某モールで講師も担当。店の個性を活かした支援、人が育つ環境づくりに興味を持ち、コマースデザインに入社した。中小ECの可能性を信じている。カメラ好きでcanon60D愛用中。スパイスカレーに目がない。