ECで「値上げ」のやり方・考え方。利益率を上げて健全化するには?

こんにちは、コンサルタントの味藤です。

今回のテーマは、ズバリ「値上げ」について。

皆さん、商品価格は定期的に見直していますか?原料高騰や送料値上げなど、原価が変わったら当然商品価格も見直す必要があります。そのままの価格で売り続けて、気づけば赤字経営…なんてことになったら大変ですね。

弊社のECコンサルでは、よく「値上げのお手伝い」をしています。今回は、コンサルの方法論から抜粋して、覚えておくべき「価格改定のやりかた」をご紹介します。まず、前半で値上げの考え方や重要ポイントを紹介。自分の商品は「値上げ」に向いているか?向き不向きと成功パターンなど。後半では具体的なハウツーをかいつまんでご紹介します。

「値上げ」の考え方

まずは、「考え方」をご説明します。値上げしたい!どうやればいいの?という方も、ウチは値上げ難しいかな・・という方も、まずは考え方から理解しておきましょう。頭がスッキリして、判断がしやすくなります。

値上げの意味

ECの事業運営において、値上げにはどんな意味があるでしょうか?
簡単に言うと、こんな感じです。

  • コストは掛からず、売上・・というより利益が即座に増える
  • ライバルへの売上流出やお客さんの不評というリスクがある

効果は高いけどリスクがあるわけです。ただ私達の経験上、意外と安全なんですよね。「何も考えずにむやみに値上げ」すると良くないことが起こりますが、ちゃんと考えてやれば、圧倒的にメリットが大きい。

典型的な「ネットショップの値上げ」成功例

まず、イメージがしやすいように事例を1つご紹介します。

とあるネットショップでは、「売上は好調。粗利もそれなりにあるはずなのに、締めてみたら赤字」という状態でした。そこで、この記事で紹介している方法を使い、正しい値上げを実施したところ、翌年から黒字に転換!

具体的にどうやったかと言うと、

  • (1)「値上げ耐性」を見きわめて、
  • (2)どの商品をどの程度値上げするかを考え、決めて
  • (3)ページを書き換えてお客さんに案内
  • (4)リピートされる商品なので、メルマガでリピーター向けに値上げの告知も流しました。

ちなみに商品自体は粗利が高いのですが、内訳を分析していくと「無駄に安すぎる入り口商品」があってそれが赤字の原因でした。それにより、リピーター化も抑制されていたことがわかりました(安い入口商品ばかり買われてしまっていた)。

値上げしたら、ある程度は売り上げが下がるかも・・・という不安はありましたが、なんと、売り上げは全く変わらずに、利益だけが激増しました。結果として、この施策だけで黒字転換になりました。この儲けを使って、このお店はその後順調に成長をしていきました。

・・・こんな感じで実際色々なお店の値上げをお手伝いしてきましたが、「値上げしたけど、全然売上が・・拍子抜けするほど・・落ちなかった!利益だけ増えた!」というケースはしょっちゅうあります。もちろん売上が下がったケースがないわけではないんですけど、後述するセオリーを押さえればリスクは減ります。「売上は減ったけど、利益はそのまま=出荷が減ってハッピー」になることもあります。

というように、会社の健全な運営のために効果が高いので、赤字続き、利益がなくて困っているという方はぜひ「値上げ」も考えてみてください。ウチは大丈夫!という方も、今はやらなくても、考え方とやり方だけでも知っておくことをお勧めします。

値上げは悪ではない

ただ、値上げというと、なんかうしろめたさ、お客さんへの申し訳なさを感じる人も少なくないのではないでしょうか。でも値上げは悪いことではありません。単なる価格変更です。だって、原価が上がれば、価格も変えるのが当たり前ですよね。

「うちはずっと値段を変えないで〇十年価格据え置きでやってます」って、よく美談にされがちですが、これでは「鶴の恩返し状態」。身を削ってるってことです。お客さんだけがいい目を見て、お店は苦しんでるって変です。コストの切りつめばっかりでは、社内のスタッフや自分たちにしわ寄せが来ます。お客さんもお店もどっちも幸せな、長く続けられる商売をしたいですよね。

そもそも商売というものは「原価率が高ければお客さんが喜ぶ」わけではありません。原価率が低い・・お客さんにとっては「割高」であっても、ラクできたり(ex.靴紐をあらかじめ結んでおいてくれる)、楽しかったり(ex.笑えるオマケがついてくる)するなら、「多少高くても買う」人は、少なからず存在します。割高でも、お客さんが喜ぶなら、それは正しい商売です。

むしろ、ついつい「必要以上に安くしてしまって、そのまま放置」のケースも多いんです。この場合は、値上げというより「値戻し(通常価格へ戻す)」ですね。

とはいえ「理屈はそうだけど、どう説明すればいいのか」「お客さんからなんと言われるか」といった心理的負荷から値上げを避けている人も多いようです。値上げをどう伝えるか、は後述しますが、結構大丈夫ですし、丁寧に伝えれば「がんばってください」と応援の返信がくることすらありますよ。

値上げへの「気後れ」を取り除いて、前向きに検討してみて下さい。

まず「値上げしやすさ」をチェックしよう

なるほど、じゃあ値上げも考えてみようかな・・と思って頂けましたか?ありがとうございます。

では、まず、自店の「値上げしやすさ」を調べてみましょう。
値上げしやすさは、お店や商品によって違います。

「値上げ耐性」という概念を覚えて下さい。値上げしたときにどれだけ耐えられるか、つまり値上げしやすさという意味です。値上げ耐性が高いと、値上げしても結構大丈夫。

「値上げ耐性」は判定ポイントは以下のとおりです。

値上げ耐性の「低い」商品

有名ブランドやメーカー製で、商品名が記憶されていて、指名買いされるような商品が典型です。

「その商品が買えればどの店で買っても同じ」だから、お客さんの比較基準がすぐ「価格・送料・早さ」に流れがち。周りより割高にすると、お客さんがすぐに他店に流れてしまう。

要は「どこで買っても同じ」で「だいたい何円くらいが相場だよね」と認識されるような商品は、値上げしづらいです。その典型が、いわゆる「型番商品」です。この場合、ちょっと値上げしただけで、選ばれなくなります。

該当する方、まだ諦めないで下さい。

  • 型番商品が主体の店でも、全商品が値上げできないことはありません。品揃えの全体のうち、値上げ耐性のある商品、儲かる商品が一部混ざっているはずです。見逃さないで下さい。
  • 値上げ耐性が低い商品でも、「他店に在庫がない」「他店は取り寄せで自店は配送が早い」「他店よりメーカーとの関係が良いから入荷が早い」といった場合では、強気の値付けも可能です。

値上げ耐性の「高い」商品

オリジナルや無名メーカー製で、お客さんが「目に入った中で良さそうな商品を選んで買う」商品。お客さん側に予備知識が少ない商品。これらは値上げ耐性が高いです。

  • 特に「相場に幅がある商品」が有利。
    • 例えば「1500円のカレー」も「300円のカレー」も普通に存在しますよね。
    • この場合、「このカレーは1000円です」と言われれば、お客さんは素直に「1000円の価値なんだな」と認識しやすい。
  • お客さんが不慣れで相場観のない商品
    • 例えば「自動薪割り機30万円」と言われても「ちょっと高めだな」なんてわからないですよね
  • 店として「他店にできないサービス」がある
    • モノの値段だけ・商品単体だけで単純比較されない状態になっている。

相場に幅がある商品は、値上げがしやすい。「1つ500円の高級まんじゅう」であっても、納得させられるエピソードや特徴があれば高くても売れます。そう考えると、「ちょっとくらいの値上げ」なら全く大丈夫だということが分かると思います。

実際、お店ごとに事情は違うのですが、何となく感覚は伝わりましたか。
ご自身のお店はどうでしたか?

※具体的な値上げの進め方については後述します。

値上げコンサルの成功事例いろいろ

上記を踏まえ、実際のコンサルティングの中で、値上げが上手くいった事例をいくつかご紹介します。
皆さんのお店でも再現出来そうだなと思われたら、ぜひ試してみてください!

「価格相場がよくわからない商材」の成功例

オリジナルのアート作品を販売しているショップで、商品価格を全体的に1割ほど引き上げましたが、値上げ前と変わらず、安定して売れ続けました。

アートって、お客さんそれぞれの価値観で判断して購入されるものですよね。また、同じものがなければ価格比較が難しく、相場もよくわからないので値上げが上手くいったようです。もっと言うと、価値判断が難しい、よく知らないものの場合、判断基準が価格だったりしませんか?逆に「高いから良いものだろう」と思ってしまうことも少なくないですよね。

「仕入れ商品をオリジナルに見せる」成功例

これは、値上げ耐性の低い仕入れ型でもうまくいった事例です。
ほとんど仕入れ商品を取り扱っている雑貨店ですが、仕入れ商品であっても、自社で商品写真を撮影し直し、独自の目線で商品の魅力を説明するなど、商品アピールを工夫しました。

結果として、お客さんの目に留まる機会が増え、他社の同じ商品とも単純比較されず、値上げしても、他店にお客さんが流れませんでした。

「ギフト商材」の成功例

とあるギフトショップでは、「商品を全体的に値上げしたのに売上にマイナスな影響がない」という結果になりました。

これは仮説ですが、ギフトの場合は、その商品が自分にとって「安いか/高いか」や「できるだけお得に買おう」、という検討ではなく、予算ありきで良いものを探そうと検討されるため、少しの値上げであれば、影響はあまりなかったのではないかと考えています。

※価格帯を跨ぐような大きな価格変更は別です。

「人気・特需商品」の成功例

一時的に需要が急激に高まると、需要と供給のバランス(需給バランス)が崩れます。需要が多くて供給が足りない場合、その商品は高くても売れますし、自然と値上がりしていきます。

最近だと、コロナの影響で、特需で売れる商品がたくさん出ましたよね。市場環境が以前から変わったわけですから、自店の商品の需給バランスを見て価格を再検討すると良いでしょう。実際、ガーデングッズを扱うショップで、特需に合わせて商品値上げをしたところ、値上げ後も好調に売れました。

※とはいえ、需要のままに値段を吊り上げるのは良くないので、あくまでも適正な範囲内にとどめましょうね。

「楽天3980」の場合は?

ここは楽天出店者向けの話です。楽天の場合は、送料無料ラインが3,980円に固定されているので(任意)、これも踏まえた「利益の出る価格設定」が必要ですよね。

  • 送料分で赤字を出さないために、送料を商品価格に反映する
    • 今どういう変わり方をしているかを分析して検討する必要があります
  • ただ単純に送料を載せると、商品を複数購入すると「送料の二重取り」になってしまう
    • だから複数購入者に損をさせないような工夫も必要(例:セット化、クーポンなど)
  • 「遠隔地」への配送も見込んだ値付け・設定をする
    • 例えば「北海道には送らない」判断をした店も多いです。特に売り上げが減った話は聞かないですね

など。これらについては、以前ブログでもご案内してますので、以下をご参考にどうぞ。

    なお、現在楽天では、「これらの設定をするための判断材料」となるデータをダウンロードすることができます。
    上記の考え方は、まず自店舗の売れ方の実態を把握して実施すべきですよね。例えば、北海道からの注文が多い場合は、「北海道へ送らない」という判断はマズいですから。
    「価格設定試算ツール」というものがあり、これを利用すると、実際の楽天自店舗での商品の売れ方によっての経費の掛かり方がわかります。価格帯別の注文数や配送先と配送手段別の売上などが把握できます。これは、3,980円の送料ラインに際しての計算用に投入されたものですが、値上げを検討する上での実態把握にも活用できますよ。

    「値上げ」のやり方

    では、ここから「値上げ」のやり方について、手順の形で説明していきます。

    考えるべきことは多いです。ノートを広げ、あれこれ書いて考えながら進めていきましょう。いつ何をするか、作業の流れを書き出して、懸念を洗い出し、ひとつひとつ解決しながら進める感じです。

    ステップ1:候補を選ぶ

    まずは「商品ごとの利益額一覧」を見ながら、各商品がどの程度の利幅になっているかを確認。

    上位商品を値上げできないか、あるいは「売れば売るほど赤字になる変な商品」がないかなどをチェック。
    「値上げ候補」をピックアップしていきます。

    商品ごとの利益一覧なんて、そんなデータはないよ・・という方は、参考記事をご覧ください。ダウンロード資料もあります。この記事を読むと自分のお店の各商品の利益管理ができるようになります。※

    ※「忙しくて1人でここまでできない」という方もいると思いますが、とても重要なことです。「見なかったこと」にはしないでください。弊社のコンサルティングでもお手伝いができますので、ご相談下さい。

    ステップ2:値上げの判断

    次に値上げ耐性を踏まえ、値上げするかを判断します。

    まず「商品検索で隣にどんな商品が出てくるか」を調べて、一応どの程度の価格差か、比較対象となる他の商品はどんな内容か・・を確認します。見比べると「必要以上に低価格にしている」ケースが結構多いので、そういう場合は大いに値上げの余地があると言えますね。

    値上げ耐性の高い商品であれば、値上げの方向で検討します。合わせて「となりの商品と比べて有利になるような見せ方・商品説明の仕方」を考えたり、「商品が割高でも買ってもらえるような原価の低い特典」などを考えます。

    「値上げ耐性」の低い商品の場合は、何か一点「差別化ポイント」を用意すると値上げできるかもしれません。たとえば、「原価がとても安くて、商品と一緒に使うと価値が高くなる何か」を用意して、おまけとして付けます。それだけで、単純比較されにくくなります。たとえばレシピ集のような「簡易マニュアル」や、計量スプーンのような「商品を活用する小道具」を提供するなど。

    ステップ3:ラインナップも想定して価格改定

    次に、「商品ラインナップも視野に入れながら」値上げの金額を検討します。

    なぜラインナップを意識して価格を調整するかと言うと、「価格設定に矛盾が起こる」と、リピートなどに致命的な問題が起こるからです。たとえば「定期購入商品を作っているのに単発まとめ買いの方がお得だから買われない」「入口商品が安すぎてリピート商品を全く買ってもらえない」というケースはよくあります。

    全体のバランスを見て、矛盾が起こらないように価格を調整しましょう。
    以下の記事も参考にどうぞ!

    ステップ4:見せ方を調整します

    値上げしなくても大切なことですが、値上げするなら尚更、「魅力が伝わる商品説明」に力を入れましょう。

    ネット上には「あなたの商品と似たような商品」は沢山あるので、比較して「良い所」をちゃんと書くことが必要です。類似商品と違って何がどう良いのか、割高であっても買うべきだと思われるようなポイントを説明をしていきます。それを書けば「高い理由」が伝わって、高くても選ばれやすくなります。

    コピーライティングとしては「従来品は○○が○○ですが、この商品はなんと○○。ワンランク上の△△です」みたいな表現ですね。こういう表現は大変重要で、うまくやると「値上げしたのに売上が伸びる」ということも起こります。

    弊社の過去の記事が参考になります。「割高な商品でも魅力的に見える商品紹介」について説明しています。価格・ポイント頼みで、商品紹介が空回りしてるかも・・という方は、ぜひ読んで下さい。

    ただ、こまごました調整は意外と時間がかかるものです。主力商品ならじっくり手間をかけますが、主力でないなら、一旦ズバッと値上げしてしまって、その後で急いでページ調整する方が現実的かもしれません。

    ステップ5:必要に応じて告知

    最後に「告知」です。
    「値上げを予告する」のか、「黙って値上げする」のか・・は悩みどころですね。

    リピーターの多い商品は、伝えたほうがいいですね。前述の通り「意外と大丈夫」です。「メルマガやSNSで値上げ告知したら、応援メッセージをもらった」という人もいます。告知内容としては「価格の維持に努めてまいりましたがこの度はやむなく価格を改定します」というフレーズはよく見かけますよね。「値上げの理由」は皆さんの周りにもたくさん存在すると思います。原料が高騰している、運賃が上がっている、人件費が上がっている、など。実際、値上げしたくなるような理由があるわけですから、共感を得られるように表現しましょう。

    一方、黙って値上げするケースもよくあります。サイレント値上げ。こっちのほうが多いかも。小さい値上げで、かつリピートの少ない商品なら大丈夫です。面白いケースだと「2年かけてちょっとずつ値上げして、累積でだいぶ値上げできた」というケースも聞きました。大きな値上げであれば、リピートがない商品であっても、以前購入した人が商品ページを見たら悲しくなるので、きちんとページ上で説明をしましょう。

    まとめ

    世の中が色々と変わっていますから、商売の環境も当然変わります。「以前なんとなく付けた価格」をそのままにして引きずるのではなく、状況に合わせて調整していきましょう。

    そのままにしておくと「得られるはずの利益」を得られなかったり、頑張っているのに無駄に赤字になっていたりする可能性があります。状況に合わせて正しく価格へと変更(値上げ)することによって、正しい利益を得られることができます。

    よく言われることですが、値上げはあらゆる施策の中で最も利益に直結する施策です。不安な気持ちはあると思いますが、ぜひ一度検討してみてください!

    PS
    とはいえ、そもそも考えなきゃいけないことが多すぎて、ちゃんとやりきれるかが不安・・1人でやるのは大変・・そんな方には、弊社のコンサルタントがお手伝いできるかもしれません。

    コマースデザインの「顧問型ECコンサルティング」では、このような「商品価格の見直し」だけでなく「広告費用をかけない売上アップ」や「忙しすぎるお店のための業務改善」など、EC事業全体をサポートしています。Web会議やチャットでお話ししながら、お手伝いをします。気になる方は、お気軽にお問い合わせくださいね。

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この記事を書いた人

味藤絵美子
有名EC企業にて、店舗の立ち上げから店長まで一連の運営業務を経験し、実績を重ねる。その後、食品メーカーに転職、衰退した人気店の建て直しに尽力。2年間でアクセス数4倍、転換率2倍とし、再成長させる。メーカー型、仕入れ型、大規模、小規模共に経験している守備範囲の広さが強み。ネットショッピングが大好きで、女性ならではの柔らかい物腰の中に、鋭いお客目線が光る。

EC事業コンサルティングを行う「コマースデザイン株式会社」の社員ブログです。

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