顧客に選ばれる店舗作りとは?和歌山セミナー&有名店舗見学レポート

こんにちは。坂本です。先日、和歌山県で2年9ヶ月ぶりにリアルセミナーをしてきました。

せっかく和歌山に行くので、長年お世話になっているヤッホーブルーイングの皆さんと一緒に、和歌山の有名店舗さんの現場を見学。同行させてもらったヤッホーさんと、見学させて頂いたうなぎ屋かわすいさんと早和果樹園さん。3社ともメーカー直販型のEC事業者なんですが、

  • ヤッホーさん :お客さんを深く理解&インサイト把握に長けている
  • かわすいさん :メンバー全員による「改善活動」に長けている
  • 早和果樹園さん:パーパスを中心とした「分権的な経営」に長けている

という印象を受けました。三者三様それぞれの特徴があってすごく面白い!大変勉強になりましたし楽しかったので、今回は和歌山のセミナーと店舗見学のレポートをお届けします。

和歌山セミナーの報告

坂本講演はこんな内容でした

まず、「坂本のセミナーがどんな内容だったか」をご報告します。
今回、和歌山県庁さんからの依頼で、「わかやまネット通販フォーラム」に講師として登壇しました。リアル・オンラインあわせて150人程の大規模なセミナーとなりました。

実は、和歌山でセミナーをするのはこれで4回目です。これまでも「競争に埋もれないための考え方」「これから選ばれる店の条件」などを、和歌山のEC事業者のみなさんにお伝えしてきました。

今回の講演のテーマは、「後発参入でもできる!顧客に選ばれる店舗づくり」
内容は、大きく以下の2つです。順番にご説明します。

  • (1)後発で参入したECで、いかに売上を伸ばしていくか
  • (2)競争が激しい中、価格競争は避け、いかに幸せに商売していくか

(1)後発で参入したECで、いかに売上を伸ばしていくか

まず1つ目は、「中小企業の後発参入ECは、体制作りが大事」ということ。

特にEC立ち上げ初期の場合、皆さん必ず本業があって、片手間でECを運営することになります(ある程度売れてからも、そのような状態の方は多いですが)。やはり「売上を伸ばすための作業が一日15分しかできません」「1日30分だけできます」という状況では、なかなか売上は伸びません。

ECの売上を伸ばし、成長させていくためには、「攻めの時間」をどれぐらい作るかが重要です。
そのための大切なポイントは、社長さんや店長さんといった頭を使って商売する人の「考える時間」「攻めのアクションを取る時間」がどれぐらい捻出できるか

実は、社長がやらなくてもいいような「定型的な業務やバイト君でもできる業務を、長年抱えている」というケースが非常に多いんです。私達は、そのような方に向けた業務改善コンサルも行っていますので、事例なども紹介しながら体制作りの方法をご案内しました。

「無理だ」「これは自分しかできない」「他の人にはお願いできない」と思っていても、案外切り出せるものです。このブログを読んだ皆さんは、今一度、

  • 「定型的なルーチン業務」をしている場合ではない
  • 「攻めるための時間」を捻出しなければいけない

という思いを新たにして頂きたいです。

(2)競争が激しい中、価格競争は避け、いかに幸せに商売していくか

2つめは、ライバルがたくさんいて比較される中、「競合に埋もれず、選ばれるためにはどうしたらいいか?」という考え方をお伝えしました。

ほとんどの店には、より大きくて魅力的なライバルが既に存在します。ライバルをマネしても、レビューが多く評判のいい商品と真正面から戦っても、勝てるはずがありません。
「価格競争ができる」とか「資本力がある」なら別ですけれど、先行している横綱と正面衝突しても弾き飛ばされるだけ。後発のお店はそんなにたくさん売らなくていいので、若干ポジションをズラしながら、たくさん売らなくてもいい立場を生かした、ユニークなポジションを作っていくことが大事

そのポジショニングを「商品ページや商品画像・お店全体として、どのように表現していくか」を解説しました。
1つ簡単なヒントをあげると、売上がゼロではないなら、一部のお客さんは「他店ではなくあなたの店で買ってくれている」わけです。その事実を忘れず「選ばれる理由が自分にも何かしらあるはず」と考えて、自分の魅力を探してください。
「今の自分にない魅力」を身につけようとするより、「自分ならではの若干ニッチな魅力」を大切にしましょう。「自分の魅力が分からない」という方は、自社の商品を買っているお客さんを観察したりインタビューしたりするといいでしょう。

セミナー参加者のみなさんの感想

セミナーに参加いただいたみなさんの感想を一部紹介します。大変好評でした!

すぐに役立つ内容だった
  • 坂本様の講演で当社のecサイトに欠けている点に気づきました。サイトの改善にいかしていきたいと思います。
  • 限られたコストの中、目に見える成果をどのようにだせばいいか、暗中模索している状況でした。今回の講演でヒントを得られたように思います。
  • 現在自分自身の業務にすべき点・確認すべき点をお教え頂きました。購入してくださった方の経緯などを明確にすることの重要さがとても良く理解できました
とても分かりやすかった
  • どの会社さんにも当てはまる情報で、わかりやすく、またすぐに実行できるお話が多くとてもよかったです!
  • 坂本様のお話、すごく良かったです。特に中小企業の悩みに、寄り添ってくださってる感じがして、お言葉の一つ一つがとても心に響きました。
  • 坂本さんの話が分かりやすく、自分が気付けていない部分が多かったので、有意義なセミナーでした
時間が足りなかった。もっと聞きたい
  • 講演内容は正直時間が短すぎ!と思いました。他の参加者からも「もっと深く色々聞きたい!」という意見が多かったです。それほど重要な内容だったので、ぜひまたお願いしたいです。

ヤッホーブルーイングさんの講演

私の講演の後、ヤッホーブルーイングのコンシューマー事業統括である、もっちーさんの講演がありました。

テーマは、「ヤッホーブルーイングのブランディングと顧客との絆づくり」。

以前、私はヤッホーさんの工場やオフィスを見学したことがあります。また、長年ご支援させて頂いていて、ECに携わっている方々とよくお話するので「ヤッホーさんがどんな会社か」はよく知っているつもりでした。

しかし、今回もっちーさんのセミナーを通して、改めて「ヤッホーのすごみがどこにあるのか」を再認識することができました。

ヤッホーの強みは、お客さんを理解しようとする姿勢の深さ

多くの方が認識するヤッホーブルーイングの強みと言えば、ファンマーケティングであり、「熱量が高く、商品愛・会社愛の強いスタッフの皆さん」というイメージかと思います。
それは間違いではありませんが、今回すごいと思ったのは、ファン作り以前の「ファンやお客さんを理解しようとする姿勢の深さ」です。

「お客さんに好かれたい・愛されたい」「ファンになってもらいたい」と思う人は多いと思います。人生全般において「人に好かれたい」と思うならば、

  • まず相手のことを好きになり、相手を理解することが先
  • その後、相手に好かれるかもしれない

このような順番になると思います。同様に、ヤッホーさんは、「ヤッホーのビールを飲むのはどのような人か」、相当深い所までお客さんの感覚(=インサイト)を掘り下げています。しかもそれを感覚的にやっているのではなく、組織の文化として継続的に取り組んでいることが、今回のもっちーさんのセミナーでよく分かりました。

ヤッホーがファンに愛されるのは「愛されるより愛したい」から

そのユーザーインサイトの具体例としては、「水曜日の猫」のペルソナが有名です。
ネットショップ担当者フォーラムの記事で詳しく解説されているので、興味がある方はこちらをご覧ください。

このように、ユーザー本人も恐らく気づいてない潜在的なレベルまで、深層心理をくみとっています。そして、占い師やカウンセラーのように「あなたはきっとこうしたいんでしょう」というレベルでユーザーを理解し、パッケージを考えたり、ネーミングを作ったり、商品を案内していることが分かりました。

実際、私達がヤッホーブルーイングの皆さんをコンサルティングさせて頂く際にも、

  • 「お客さんは、なぜこれを買うのかな」
  • 「どういう人が定期購入するのかな」

といった、お客さんのインサイトを想像する・理解しようとする発言が、とても多いんですね。
今回のもっちーさんのセミナーから、ヤッホーさんの「ファンを作る」「愛される」という特徴は、背景として「お客さんを理解している」「愛されるよりも愛したい、マジで」だということがよく分かりました。

翌日は和歌山のEC事業者さんを見学

セミナーの翌日、うなぎ屋のかわすいさんと早和果樹園さんの店舗見学に行きました。

うなぎ屋かわすいさん:メンバー全員による改善活動

まずは、うなぎ屋かわすいさん。
専務の方と楽天を中心にECを統括している方に、工場を案内していただきました。前日の懇親会で飲み過ぎましたが、アルコールが完全に吹き飛ぶレベルの素晴らしい工場でした。

大量のうなぎがオートメーション化された工場。流れていくうなぎを、スタッフの皆さんが次々と丁寧にさばく様子を見ながら、ヤッホーのもっちーさんが「これ1枚で何千円…」とつぶいている姿が印象的でした。
確かに、ビールという単価安めの商材と、うなぎのような単価の高い商材ではずいぶん違います。

私は「トヨタ生産方式」やTOC(Theory of Constraints)など、生産管理のノウハウが大好きなんですが、かわすいさんの工場も、背景にそういった考え方があることが随所で見て取れました。

全員参加型の経営で、自社に適したシステム構築&常に改善

最も印象的だったのは、全員参加型の改善経営です。
システム担当部署のみなさんを中心に、全社で業務プロセスを磨きあげる文化があるんですね。

かわすいさんは、ファイルメーカー制受注システム「店舗アップ」を自社でカスタマイズして使っています。
例えば、現場の皆さんが「こんなことはできないかな」「こういうことで悩んでるんだよね」という声をあげると、システム担当の方が「では、こんな感じでどうですか?」とシステムに落とし込んでくれるそうです。

私は正直、ファイルメーカーはちょっと古いと思っていたんですね。今は、ネクストエンジンやクロスモールなど、パッケージのツールが発展しているので。
ECに限らず、様々な企業において「パッケージのツールを組み合わせて、流れとしてシステムを作る」のが、クラウドツールを利用する時の考え方だと思います。ですから、「パッケージツールを軸とした店舗運営」が普通だと思っていました。

しかし、かわすいさんのカスタマイズしつくされたファイルメーカーを見ていると、改善文化のある会社とファイルメーカーは相性がすごくいいのかもしれないと考えを新たにしました。ヤッホーのシステム担当の方も、「常識をくつがえされた」と言っていたくらいです。

会社のすみずみまで浸透している改善文化

「改善の姿勢が全社に根付いている」と感じたキッカケがあります。
それは、トイレのスリッパです。かわすいさんのトイレの入り口はこうなっていました。

「スリッパはここに置きましょう」ということを、言葉ではなく「あしあとマーク」で示しているんですね。

これは、トヨタ生産方式における「定位置管理」という考え方です。
「このステッカーは誰が貼ったんですか?」と伺うと「社長」とのこと。トイレのスリッパの位置一つをとっても、日々の生活の中で、トヨタ的な生産や効率の考え方が全社に浸透していることが分かります。ありとあらゆる所に、組織文化として改善文化が根付いていることを感じました。また、EC統括の方が「工場のあらゆる所を把握していて説明できる」ことも印象的でした。

ちなみに、ちょうど改装中で非常に美しいオフィスでした。地域のリーダー企業として、企業価値やブランドも高めようとしていることを感じました。

余談ですが、名刺交換したかわすいさんのスタッフの中に、雑賀さんという人がいて。「和歌山の雑賀さんは、あの雑賀衆(※)の雑賀孫市の子孫かもしれない」と、個人的に歴史好きとして盛り上がりましたw

以上が、かわすいさんの現場見学でした。


※雑賀衆(さいかしゅう)
戦国時代、最強と言われた紀伊国(現在の和歌山県)の鉄砲傭兵集団。「雑賀衆を味方にすれば必ず勝ち、敵にすれば必ず負ける」と評されていた。

早和果樹園さん:パーパスを中心とした分権的な経営

その後に、早和果樹園さんの見学に行きました。

場所は和歌山県有田市。隙間があればどこにでもみかんの木が生えている、みかんの里です。こういう山間の場所に、全国区のEC企業が存在するというのは、とても勇気が出る話だなと思います。

案内してくれた社長の秋竹さんは、「かわすいさんと見比べられるのが辛い」と笑いながら案内してくださいました。

早和果樹園さんは、ジュースを中心に様々な商品を作っている会社です。自社で作ったミカンや買い取ったミカンが、様々な加工商品に変化していく様子を見学させていただきました。
残念ながら工場が大掃除中だったので、加工する所はあまり見られなかったのですが、ミカンがスムーズに分類され、品種や性質ごとに様々な商品に加工されていく様子は、見ていてとても面白かったです。

現場に権限移譲した、自律分散的な経営スタンス

組織文化で興味深かったのは、自律分散的なスタンスで経営している点。
現場に判断を委ね、部署毎に採算を見ているんですね。それを実感した出来事がありました。会議室の壁に「EC事業のMQ(限界利益)の推移」の手書きのグラフが貼ってあったんです。

「これはなんですか?」と聞いてみた所、社長の秋竹さんは「これは現場で考えてることなので、分からないので聞いてみます」と、現場のリーダーの方にきてもらい、解説してもらいました。
「こういう所に、事業や店毎の収益を管理するためには、固定費をどのように扱うのか?」といった疑問にも、リーダーの方はスラスラと答えて頂きました。

また、商品の袋詰めをしているおばあさん達に「それは何ですか?」と聞いたら、「ミカン七味ですよ。売店で売ってますよ」と言われたので、「これは買わざるを得ない」と思い、帰りに売店でいろんな商品を買いました。

ミカンが様々な形に加工され、たくさんの商品になっていることで、いろいろな商品を買う形で「1人当たりの客単価」が上がります。その結果、ミカンの価値も上がり、「まさに会社の行動指針に合致している」と感じました。

郷土に根差した公共性によって、地域から応援される

一番興味深かったのは、会社の歴史と公共性です。

早和果樹園さんは農業法人なんですが、元々はいくつかの農家が集まって、組合を作った所から始まりました。
そのような出自もあり、「郷土の和歌山に誇りを持って、ミカンの価値を上げていく」という地域を支えるスタンスが明確だと感じました。ザ・営利企業ではないんですね。
特に、会社のスタンスを表していると思ったのは、「アグリファンフェスタ」というイベントです。

地域の皆さんや子供達が、ミカンの山に登ってミカンを取ったり、ミカンの皮を投げたりといった、参加型の楽しいイベントを開催しています。ミカンという一つの果物から、これだけ世界が広がるんですね。

会議室の壁一面には表彰状が飾ってあり、それは圧倒される程でした。また、地域の小学生が工場見学した時のお礼のメッセージも貼ってありました。ほっこりする可愛らしい字で書かれたお手紙です。

効率や高収益も目指してはいるけれど、それ以上に「地元の産物と人材をフルに活躍してもらうこと」が先にある印象でした。具体的には、

  • 生産者からミカンを買い取る
  • 地元の良い人材をたくさん雇用する
  • そして、ミカンを売っていく

というように、売れるものを売るというより、仕入れや採用が先で販売は後という、地元に根差した経営方針なんですね。

このように「公共性によって、いろんな人から応援されている」ことが、早和果樹園さんの特徴だと感じました。実際「地域からとても応援されている」とおっしゃっていました。

ちなみに、皆さんはこの後、見学会の打ち上げで飲みに行きましたが、私は翌日講演があるため、泣く泣く1人で帰っていきました。

まとめ

メーカー直販型のECは数あれど、深い所まで見ていくと、会社によって文化や強みは随分と違います。
今回じっくり見学させて頂いたことで、「本当の強みの由来・源泉である組織文化」を感じ取ることができたので、ご紹介しました。お化粧や演出ではなく、「組織のDNAレベルに刻まれた組織文化や習慣」が、日々の蓄積を経て本当の強みになっていくのではないかと思います。

もしかしたら、「うちは、こんなに大きい店ではないからムリ」と思う方がいるかもしれません。
今回見学させて頂いたお店は、確かに中小ネットショップの中ではかなり大きな方です。しかしご本人からすると、より大きな企業と比べられている状態なんですね。

誤解のないよう説明しておきますと、私は大きいことがいいことだと思っているわけではありません。より大きなお店や企業と比べられながら、「ファンを増やして愛されてるお店」の魅力と強みをみなさんに知ってほしくて、今回ご紹介しました。もっと小さいお店でも、長く愛されてEC事業を続けていくことができると、私は信じています。

講演でお伝えしたことでもありますが、「大手と比べられても輝けるようなキャラ立ち」がすごく大事です。
便利なネットショップは、そうたくさんは必要とされません。Amazonのような店は、1つあれば十分かもしれません。
人間は、便利なだけでは豊かにはならず、選択肢の多さこそが豊かさだと思います。
であるなら、仮に割高でも不便でも個性のあるお店は、便利さではなく「豊かさの文脈」でお客さんから選ばれ続けると思います。そのように、選ばれるための強みを持つことが重要です。

とはいえ、人数が少ないと仕事は忙しくなりやすいもの。「日々の業務改善」「効率化」「無駄に抱えているルーチン業務」をシステム化したり、パートさんに切り出したりといった、仕事の工夫も同時に必要です。

私達は、今後も小さな事業者が魅力を発揮し続けることで、多様な選択肢のある豊かな社会を作るべく、今後も中小事業者のご支援を続けていきたいと思っています。

P.S.自治体の方へ 

今回の和歌山セミナーのような講演は、他の自治体でも開催可能です。リアル・オンラインどちらも受け付けていますので、ご興味のある方はお気軽にコマースデザイン株式会社までご相談ください。お問い合わせはこちらからお願いします。

カテゴリー: ECセミナー・講演

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