人の問題を減らして平和に経営するには?(後編) ~組織問題の対策~

こんにちは。坂本です。毎年1月に、年間の展望についての記事を書いています。2024年は、AI時代なのに、「人の問題を解決して、平和に経営しよう」というテーマにしちゃいましたw 今回は後編です。

未来に向けて取り組むべきことが色々あるのに、足元の問題に引っ張られると、前進できません。「経営者の悩みは人の問題が8割」とも言われていますから、ここをクリアして、未来に向けた新しい仕事をしましょうーーということで、こういうテーマになりました。AIの話はまた別で書きます。

前回は、ありがちな問題として「指示待ちの人がいる」「組織内がギスギスする」「身内がギスギスする」という、よくある代表的な3つのケースを取り上げました。

今回は、その対策と考え方をお伝えします。「長年抱えてきたヒトの問題」への向き合い方を提案します。少しでも参考になれば嬉しいです。

今回のテーマ

弊社は、色々なEC事業の組織や経営に踏み込んでお手伝いしており、私自身も会社を経営しています。そこで「中小企業で起こる『人の問題』には、パターンがある」ということがわかってきました。

パターンがあるということは、違う人を同じ状況に放り込んだら同じことが起こるんです。例えば、有能な社長さんと素直なメンバーが組織にいると、「指示待ち部下が生まれて、社長が1人で走り回る」という現象が自然発生します。こういうことが、いろんな組織で共通して起きています。

これは、構造問題です。誰が悪いわけでもないのに、不幸にして対立したり傷つけ合ったり、非効率になってしまう「構造」が存在している

前回は典型的なパターンを紹介しました。構造がわかれば対策できるので、「構造を踏まえて、具体的にどう対策していくか」が今回のテーマです。

簡単に前回のおさらいをしつつ、その対策を概観します。
そのあと、本編として、各問題への見立て対策を紹介します。前回の記事はこちら。

「指示待ち問題」のおさらいと対策

一つ目は、指示待ちの問題でした。

社長が、プレイヤーとしても有能で、なおかつ細かい指示を出しすぎると、部下は「指示待ち」になります。それが結局、社長の首を絞めます。

  • 経緯
    • 有能なリーダーが、業績を伸ばします
    • どんどん仕事が増え、メンバーが増えます。しかしメンバーが期待ほど上手く動けない
  • 分岐点
    • 「メンバーに任せられない」と思ったリーダーが、自分だけで仕事を進めて大忙しに
    • 忙しくなった結果、リーダーがメンバーへの情報共有を怠って、メンバーは成長しないまま
  • 結果
    • メンバーは「指示待ちが正解」という裏ルールに従う
    • リーダーが「俺がいないとダメだ!」と不健全な自己肯定感を得て、限界を超えて頑張る
    • 実質「スーパープレイヤー1人と指示待ちメンバー」というリーダー不在組織で固定化

社長などのリーダーががんばるほど、部下は自分で考えず、「指示通り実行する」方に力を入れます。この状況は無理が生じやすく、リーダーが体調を崩したり、会社の成長が止まったりします(コンサルの現場で、そういったご相談をよく頂きます)。

対策(「規範ファースト」を卒業する)

なお、これは「細かく指示するリーダーはダメ」という規範的な話ではありません。

上記の問題構造の真因は、「メンバーの提案力不足」です。でもそれは、メンバーのせいではなく、リーダーが「自分の作業で時間を使い切って、育成や情報共有が不足している」ことにあります。だから、メンバーが自分で状況判断ができて、施策を考えて、実行できるようになればいいわけです。

どうすればいいのか?いまのメンバーが「規範ファースト」なので、「構造ファースト」へと変わってもらえばいいのです。詳しくは後ほど。

「組織内のギスギス問題」のおさらいと対策

二つ目は、組織内のギスギス問題でした。

  • 経緯
    • 貢献度の高いメンバーが生まれるが、自負心故に、視野が狭まってしまう
  • 分岐点
    • 「自分こそが事業を支えている」と誤解し、他のメンバーへの配慮を怠る
    • 「自分こそが大変」と誤解し、他のメンバーへ自分の都合をぶつける
  • 結果
    • 「自分の都合」のぶつけあいで、組織風土が悪化して、全体最適が損なわれる
    • 自己評価が高すぎて、他者からの評価とのギャップが広がる→当人は不満

この問題は、指示待ちではなく「自分で成果を上げられる」優秀な人材に起こります。自分で成果を上げるほど、自分の担当領域はよく見えるものの、他の人ががんばっている部分が見えづらくなります

自分が一番無理してると思いこんで「がんばっているのに、わかってもらえてない」と不満を感じたり、他のメンバーに対して配慮のない行動を取ったりします。

対策(自分の「メガネ」を内省する)

この状態になっている人は、盲目的というか視野が狭まっていますよね。

面白いもので、自分で状況判断して結果を出せる有能な人は「自分軸への過信」があるから、状況はよく見えているんだけど、状況を見ている「自分自身の認知の歪み」には気づかない傾向にあります。

この状態だと、プレイヤーとして数字は作れても、マネジメントは無理ですね。周りの人といっしょにがんばるというよりは、周りの人に一方的に/雑に指示出しをするか、孤立するか。。それはさみしい。

でも、自分の「認知の偏り(メガネ)」を自覚してもらうことで、大きく変わることが期待できます(私も経験しました)。これは組織内ギスギス・身内ギスギス両方に有用です。詳しくは後ほど。

「身内のギスギス問題」のおさらいと対策

3つ目は、身内のギスギス問題。夫婦や親子間で発生する感情的な対立です。

  • 経緯
    • 前提として、人は身内(大切な相手)から大切にされたい。否定されたくない。
    • 「仕事での当たり前の会話」が、身内関係の場合は大きなストレスになってしまう
    • なぜなら、当たり前の指摘なのに「大切な相手に理解されなかった」という解釈になるため。
  • 分岐点
    • 「大切な相手」から否定されて傷ついたため、悲しくて相手を否定してしまう(傷つける)
  • 結果
    • 否定された相手にとっても「大切な相手から否定された」と感じる
    • なので、否定し返す。すると、大切同士のはずなのに、お互いに傷つけ合い続ける

「身内から理解されなかったときのショック」が、分岐点になっていますね。そして、相手が大切だからこそ傷つけてしまうという、「ギザギザハートの子守唄」のような構造が存在します。ちなみに、前回書きそびれた話なんですが、ギザギザハートにはこういう心理があります。

  • 誰よりも自分を理解してほしい(と思っている)
  • 説明無しで分かってもらえる(と思っている)※

こうやって文字で書くと幼さが分かりますが、まあでも、自分もそういうところありますね。。

※「分かって欲しいけど、分かってもらえない」から、「分かってくれとは言わないさ(そんなに俺が悪いのか)」などとギザギザするわけですね。構造としては、イソップ童話の「すっぱいブドウ」の話と似ているかも。

対策(みんなの「椅子」を調整する)

まずは、大事な相手なら、「理解されなくても相手を大切にする」ことが大事です。

これに加えて、さきほどの「自分のメガネ(認知の偏り)を自覚する」を踏まえて、相手のメガネを洞察し、相手の「メガネの偏り」を認め、尊重してあげること。

立場や性格が違うので、同じ物事に対しても、一人ひとりの見え方が違います。それらを理解して、何が正しいなどと断罪せずに調停していくことで、良い関係を作っていけます。これも組織内ギスギス・身内ギスギス両方に有用です。後述します。

Lv.1「規範ファースト」を卒業する(指示待ち対策)

ではここから、具体的に説明していきます。
指示待ちが発生しがちな組織では、おおむね以下の構造があると思います。

(1) メンバーは指示を実行できるが、自分から案が出せない。リーダーとの能力差が大きい。
(2) 1が前提で、リーダーがアレコレ指示した結果、指示待ち姿勢が定着してしまう

前回は2の話を多めにしましたが、真因は1なんですよ。
なんでメンバーは案が出せないのか?今回はここに切り込んでいきます。

なんで「自分の案」を出せないのか?

「メンバーとリーダーの能力差問題」は、おおむね以下の考え方で説明がつくと思います。

  • リーダーは「構造ファースト」だから、案が出せる
  • 一方、メンバーは「規範ファースト」に留まっているから、案が出せない

どういう意味か?

「構造ファースト」と「規範ファースト」

まず用語を説明します。

  • 構造ファーストとは
    • 姿勢:まず構造を推理して、次にどうするか決める。観察と仮説を踏まえ、試行錯誤する。
    • 発言:「◯◯はこういう構造っぽい→△△を得るには□□が必要そう→となると✕✕するといいかも」
    • 価値観:状況が変われば、一度決めたことも変わる。よく見て改めていくのが大事。
  • 規範ファーストとは
    • 姿勢:規範に基づけば、どうすべきか分かる。そのために「正しい規範・正しい情報」を求める。
    • 発言:「これからは◯◯するのが正しい → だから、今回は□□するのが正解」
    • 価値観:決まったことを守る。ちゃんと実行するのが大事。ちゃんとした指示を下さい。

経営者やリーダーは、「構造ファースト」であり、頭の中で構造についてグルグル詰将棋のように考えて仮説を作って、他のメンバーを引っ張っているはずです。それについていくメンバーは、決まったことを実行する「規範ファースト」になりがちです。

マーケティングでの例

販促業務における、「規範ファーストと構造ファースト」の例をあげましょう。

規範ファーストっぽい言い回しは、「これからはファンマーケティングの時代。だからファンマーケティングの最新事例を学ぼう」。ただ、ファンマーケティングに向かない商品の方が案外多いと思いますけどね。。

一方、構造ファーストの人は「正解」ではなく「仮説」を使って、売り上げを作ることができます。例えば、「お食い初め用品」という商品があります。お食い初めは、出産後100日頃に行うお祝いで、まだ赤ちゃんが固形物を食べられないので、茶碗にごはんなどよそって食べるふりをする儀式です。その「お食い初め用品」を売っているお店が、ファンマーケティングで「お食い初めでファンを作る」とは何だって話ですよね。一瞬で通り過ぎるライフイベントなので、ファンを作れるのか・・そもそも意味あるのか・・

いきなり「どう売るのが正しいか」を考えず、その前に「お食い初めって、どういうふうに購入されるんだろう」等と「まず構造を考える」のが構造ファーストの考え方です。

以下妄想です。乳児を育てているお客さん、ある日「お食い初めはやるの?」などと親族に言われたりします。お食い初めを知らないから、まずはGoogleで検索して調べて記事を読もうとするはず。。

検証するために、実際に検索してみましょう。お食い初めの解説記事が出てきます。読んでみると、お食い初めの説明の後に「一式そろって〇〇円」「写真を撮るといい思い出になります」など書いてあり、その場で買えるようになってました。つまり、このお店は「お客さんが調べるであろうルートを予測して、そこに記事を置いて売上を作っている」わけです。この方法は売れそうです。

たしかに、モール販売もいいんですけど、そもそも知らない人が多い商品は「〇〇ってなに?」と情報検索から入るし、程よくニッチで競争相手が少ないだから、コンテンツを使った販促に向いてそうですよね。などと、構造を理解すると、自然と打ち手が見えてきます。

まず構造から入ろう

ちょっと例がクドかったですが、これが「構造ファースト」の取り組み方です。どうするのが正解か?を考えるより前に、まず「どんな構造になっているか」を考えて、その次にどうするか決めるとうまくいくよね、というお話でした。

売上を作ったり問題解決できるプレイヤーは、こういう取り組み方をしてるはずです。さきほどは販促の話でしたが、社内業務を効率化するような場合は、仕事の流れを観察して構造を把握し、次に仮説立案と進みますよね。


※こういう話をすると、規範ファーストな人は「なるほどファンマーケティングだけでもなくコンテンツマーケティングもいいかも」ってなっちゃうのですが・・これは施策の話ではなくて、顧客の行動パターンなどの「構造」を踏まえると策が出やすいですよねという話なのです。

※余談ですが、Googleだけでなくインスタとかでの検索もあるんじゃないか、と思ったあなたはインスタでもお食い初め検索してみてください。同じお店がでてきます。

※構造の話に興味がある人は「システム思考」や「TOC」もオススメです。

実践編:「構造ファースト」を身につけるには

構造で考えられる人が多いほうが、仕事が楽しいですよねーという話なのですが、なかなかそうならない。この話をすると経営者の方からは「規範ファーストになるのは日本の教育のせいだ!」だという話がよく出てきますw

それもあるかもですが、まあ、人間の脳は省エネしようとする習性があるんですよね。なにが正しいか曖昧だとストレスだし、疲れるし時間がかかる。だから「これが正解だ!」って言い切ってくれる&短くてわかりやすい情報を求めがちです。つまり売れるから、メディアも専門家も「規範勢にウケるコンテンツ」を優先して作る。結果、規範ファーストな人が増える。不健全ですが、そんな構造です。

でもそのままだと脳が運動不足になっちゃうので、ちょっと環境を変えたほうがいいと思うんです。
ということで、構造ファーストになってもらうための提案をします。

ズバリ、メンバーに構造ファーストになってもらうには、

  • 「どうすればいいか(やり方)」を伝えるのではなく
  • 「どう考えればよいか(考え方)」を伝えるほうがいい

例をあげて説明します。

販促であれば「こういう風に商品ページを修正して」「このアピールポイントを第一画像に入れて」などと、いきなり「やり方」を伝えると、規範として受け取られて成長しません。思考停止します。

そうではなく「商品ページをパワーアップするために、お客さんが気になる箇所の情報を手厚くしてあげよう。この商品を買うときに、お客さんが大事にしている比較基準って何だと思う?」などと「考え方」を伝えると、メンバー側が自分でアイデアを出せるようになります

「こうすると売れるよ」という直接的なアドバイスや指示をするより、「こういうセオリーがあるらしいんだけど、今回のケースに当てはめるとどうなると思う?」などと問いかけてみる方が、自分で構造から考える経験を増やせる。セオリーが用意されているから大失敗もしない。リーダーがいなくても自分で策を生み出せるようになる。

逆に、リーダーが、テキパキ指示するだけだと、その瞬間の指示が短時間で済む代わりに、構造で考えるスキルが伸びないんですよねー。厄介なことに、大抵のメンバーは「どうすればいいですか」と質問しても「どう考えればいいですか」とは聞いてきません。素直に「どうすればいいか」を答えると指示待ちが加速するという罠。

なのでリーダーは「質問にそのまま答えない」「一旦構造の話をする」意思と工夫が必要です。なお指示待ちの人は不安が強いので、プレッシャーをかけずに促すのがオススメです。

これを繰り返して、成功体験が増えると、構造ファーストに変わっていきます。弊社は長年コンサルタントを育てますので、結構自信があります。このように構造で物事を捉えられるようになれば、良いプレイヤーになれると思います!が、次のステージがあります。

Lv.2 自分の「メガネ」を内省する(ギスギス対策1)

構造的に物事を考えられるプレイヤーになったとしても、リーダーやマネージャーになるには「次のステージ」があります。

それは「自分の盲点を自覚する」ことです。謙虚に「自分のほうが捉え違いをしている可能性もあるな」「なにか見落としてないか」などと捉える姿勢が必要。これがないと良いリーダーにはなれませんし、組織ギスギス問題を起こしてしまうかもしれません。

「優秀なプレイヤー」は案外マネジメント下手

構造ファーストを身につけた人は、調子に乗りがちです。結果が出せるし、人に見えない打ち手も考えつくので、人に対して「こうやって考えればいいのに、なんでわかんないんだろうw」などと言い出します。はい、前回紹介した「昔の坂本」です。

ただ、プレイヤーとして有能で、自分軸が強い人は、「自分の盲点に気づかない」という弱点があるんですよね。 「自分の目に映っている様々な事柄の構造」は的確に分析できてても、その分析を行っている自分自身の歪みや偏りについては認知できないという状態。

歪んだ認知・・例えば、こういう発言をします。「大事なのは◯◯なのに、彼らは自分の都合で△△ばかり気にしている。間違っている」。◯◯と△△には何が入るかな。たとえば売上と評判を入れてみましょう。次に入れ替えてください。まあどっちでもいいんですが、組織内ギスギスを起こす人は、そんな感じで「自分の正しさ」に固執しています。

「限定合理性」という言葉があります。どれだけ人間が合理的であろうとしても、その人が把握している情報やアプローチは、「全体のごく一部に過ぎない」ので、その人の合理性は限定的でしかありえないという意味です。

人間だから、必ず盲点はあります。盲点を無くすのではなく、自分にも盲点があると謙虚に自覚できるかどうか。盲点について警戒心を持ち、自ら耳の痛い意見を素直に聞きにいっているかどうか。

このような「限定合理性の自覚」が、自分の器を超えた仕事には必須だと思います。

「メガネの自覚」でマネジメント能力が伸びる

ここで、「メガネ理論」を紹介します。

  • 人間は、「メガネ」を通して、世界を見ています。「裸眼」でモノを見ることができません。
    • なにか物事が起こったら、必ず「メガネの解釈」を経た上で、脳に届きます。
  • メガネは、過去の経験や立場、興味関心などによって形成されます
    • 経験・・震災を経験した人は防災意識が変わる。子供が生まれたら世界の見え方が変わる。
    • 立場・・製造部の人は、営業よりも製造工程に意識が向く。起業したら、会社の見方が変わる。
    • 能力・・デザインが得意で好きなら、商品を作る際、他の要素よりデザインを重視します。
    • 身体・・お腹が減ると、食べ物が美味しく見えます。機嫌の良し悪しで、人の挙動は変わる。

これが「メガネ」です。

メガネを通して見ているから、同じ現象であっても、人によって異なる受け取り方をします。これは個性ですが、偏りでもあります。同じ人物でも、日々、メガネの内容が変化しています。

もちろんあなたもメガネをかけていて、この瞬間もメガネによって「偏った受け取り方」をしています。そして、自分の判断にも、メガネが影響しています。 忘れがちですけどね。

  • デザインが得意で好きな人は・・
    • 商品を作る際に、他の要素よりデザインに意識が向きます。
    • すると、収益性など、他の要素への意識が弱くなる(盲点)
  • 経営者の場合は・・
    • 「全ての要素を調整して業績を上げる」役割ですから、収益性もデザインも見ている
    • と思いきや、そこで働いている人の気持ちへの意識が弱い(盲点)

経営者が「突然の人的トラブル」でショックを受けがちなのはこういうところも影響しているのかなとw ちなみに、創業社長はたいてい優秀なプレイヤーでもあるので、結構盲点が多いですね。

誰しもメガネをかけていて、誰しも盲点を持っています。

実践編:自分のメガネを観察する

まず自分を見つめ直し、「自分がかけているメガネ」を観察することです。人はある意味でメガネの奴隷ですが、メガネの傾向を自覚することで、少し自由になれます。

たとえば認知の偏り・・なにかへのこだわりは全体バランスにおいて盲点になっている。全体を見ると細部を見落としている。感情の歪み・・反射的に起こる自分の感情も、メガネによるものです。重視しているテーマほど感情的になりやすいです。そのような「偏っている自分、感情的になった自分」から、自分のメガネを発見することが出来ます。

「ちょっと待てよ。反射的にこう思ったけど、自分のメガネの影響でこう感じたんじゃないかな。自分のメガネって何だろう」と気づけるようになるでしょう。

これは自分を動かしている「動力源」を感じとる練習ともいえますね。たとえば、一生懸命に論理的に話しているが、その動機が焦りだったり怒りだったりします。そういう自分の真意とか、それを生み出しているメガネへの感度を高めていく。

これは「客観的な自分になりましょう(規範)」と言っているわけではなくて、むしろ反対。メガネに動かされている「偏った自分」を認めて、そんな自分をうまく扱おうという話。

たとえば、自分の盲点を自覚すれば「自分デザイン大好きなので超意識してるんですけど、たぶん見えてないところもあるんですよね。ここ見えてないぞっていう指摘とかありますか?」などと問うことができます。感情面でも、自分が不機嫌になった時もセーブできるし、不機嫌な人を見た時も、優しく接することができるようになると思います。

自分の見えている世界を力説するだけでなく、「自分の盲点(の可能性)」にまで言及しているか?

メガネと盲点を自覚しなければ「成果は出せるけど、周りが見えてない人」になりますが、これを自覚すれば「成果が出せるうえに、周りに教えを請える謙虚な人」になります。全然違いますよね。

このように自他の「メガネ」の存在を意識すると、個人の「限定合理性」という制約を超え、集団の力を活用できるようになるはずです。リーダーとはそうあるべきです。

Lv.3 みんなの「椅子」を調整する(ギスギス対策2)

次のステージがあります。「メガネに動かされる自分」を謙虚に理解したら、他人に対しての目線も変わっているはず。人のメガネの偏りを理解し、尊重できるようになっているはず。

ということで最後の段階として「他者のメガネ」を洞察してみましょう。

人はふつう他人を見るときに、あの人は◯◯キャラだ、みたいに記号化・デフォルメしがち。脳は省エネしたいから、他人を記号化したほうが楽なんです。そうではなく、他者と対話して、理解を深めてみましょう。その姿勢は、ギスギス問題をほぐします。

「椅子への理解」でマネジメント感覚を磨く

前述の通り、メガネは、個々の価値観や過去の経験から発生するほか、「役割や立場の違い」からも大きな影響を受けます

例えば、「売上が急増した」という事実があったとします。
各々の立場によって、「売上急増」への解釈はだいぶ異なります。

  • 物流担当者:「出荷が追いつかなくなるかも。みんなの協力が必要だ」
  • CS担当者 :「問い合わせが急増しそう。対応策を考えないと」
  • 仕入担当者:「欠品の可能性がある。メーカーの在庫を確認しないと」
  • 社長   :「もう少し高くてもよかったかな。他の商品も売れないか考えてみよう」
  • 販促担当者:「これは成功するポテンシャルがある。もっと積極的に売り込もう」
  • 楽天ECC :「この商品めちゃくちゃ売れそう。他の店舗にもオススメしてみよう」

同じ出来事でも、各々の立場・メガネによって、異なる視点や関心が生まれるのが分かりますね。
メガネ理論がわかってれば、納得のいく話です。

そして、こういうとき、立場の違いからギスギスが起こりがち。

出荷や受注などバックヤード側は「わかってるんだったら、もっと早く教えてほしかったなー」と不満を抱くことがあります。まあそうですけど、反応がネガティブすぎたら、販売チームは「苦労して売ったんだし、もう少しポジティブな反応でもいいのでは?」と感じ、対立が発生したりしますね。

でも、この対立は、その人が座っている椅子(=役割)から発生した「メガネ」によって起きています。人間の対立関係は、 多くの場合、 実は人間ではなく 「椅子」が対立をしています

バックヤード担当の椅子、販売担当という椅子。これはいわば、販促担当とバックヤード担当の椅子があって、そこに座った人間は 「椅子に操られて対立している」。仲間同士なのに、椅子に喧嘩させられている状態です。自分のメガネの自己観察ができていれば、この感覚はわかるはずです。

実践編:「互いの椅子」を踏まえて対話する

まず、発言の際には、「自分のメガネの偏り」に言及してみることをおすすめします。

  • 「自分は営業の仕事をしているので、製造している人と比べると、納期を優先したいバイアスがかかっていますけども・・(ここから本題)」
  • 「ちょっと最近の納期遅延は我々としてはかなり大変なんです。ただ何か背景があってのことだと思いますので、状況伺って、営業としてもできることがないか考えたい」

という風に、前置きとして、自分の立場とバイアスに言及しながら議論する。「納期遅延はね!困るんですよ!売ってるのは我々なんです!わかってるんですか!」なんて言わないw 相手を警戒させないように接するのが大切です。

ポイントは、営業とか製造といった自分の立場(椅子)と「自分自身」を、完全一致させない。自分は営業(の椅子に座ってる)なのでこういうバイアスがあるんですけど・・などと自分の立場を敢えて客観視しながら会話すること。椅子の奴隷にならない。これで建設的な空気になります。

返報性の原理という心理法則がありまして、こういう接し方をされると、相手側も同じように応対します。(そうならない人もいますけど)

  • 「配慮ありがとうございます。自分は製造の立場なので、納期への切迫感が足りなかったかもしれません。ただ実は背景がありまして。最近はパッケージの資材入荷が不定期で、そのせいなんです云々」

こういうとき「そんなこと言ってもねえ!売上なくなったらアンタの給料もないけどいいんですか!」みたいな「俺を犠牲にすると皆死ぬぞ」みたいな謎スイッチがはいりがちですがw 物事は二択ではありません。常に、両立(≠妥協)の余地があります

  • 「では、資材が遅れている中でも、納期遅延をなくすような工夫ができないでしょうか」

そのように、お互いの立場を尊重しながら、構造を洞察しながら、垣根を超えて検討をします。実際、この例でいうと、実は小ロットで細かく納品すれば顧客は十分だったり、顧客はパッケージは不要だったりします。互いの部署の思い込みを取り払うと、案外新しい解決策が出て、前よりも効率も収益性も良くなったりします。

イスに取り憑かれて、自分の立場を主張しすぎていないか?
「自分の立場=イス」の偏りにまで言及しているか?

自分が 「自分の立場=イス」に操られがちなことを自覚し、それを一旦手放すことで、 人は奴隷の立場と、無益な対立から解放され、事業もうまくいくのではないでしょうか。

できれば、職場のメンバー全員でこうなっていきたいなーと思います(当社も)。
でも、まずは自分からですね。

まとめ

いやー毎年のことですが、長かった。お疲れさまでした。

これらの記事でお伝えしたかったことは、以下のとおりです。

  • 組織内でいろんなヒトの問題があるけど、結構みんな同じ状況になってるんですよねー
  • 問題構造を生み出す背景には、人間の心理構造(メガネと椅子)が影響してるんじゃないかなー
  • ついつい誰が悪いなんて話になるけど、うまく調整すれば解決しそうな気がするんですよねー

おさらいがてら、セルフチェックしてみましょう。

  • Lv1 指示待ち対策
    • 打ち手を考える前に、構造から考えているか?
    • やり方以前に、考え方を伝えているか?
  • Lv2 ギスギス対策1(メガネ)
    • 自分のメガネを観察し、パターンを把握しているか?
    • 限定合理性を自覚し、周囲と対話しているか?「自分の盲点」に言及しているか?
  • Lv3 ギスギス対策2(イス)
    • 関係者それぞれのイスについて想定しているか?
    • 相手のイスを尊重し、自分のイスの偏りに言及しているか?
    • その上で、両立を目指しているか?
  • 共通
    • まず自分から取り組んでいるか?

たぶん一番大事なのは、「メガネとイス」の奴隷にならず、自分のメガネを観察して、「盲点の扱い方」に慣れることです。自己認識とかメタ認知とも言われますね。この解像度が上がれば、他者への見え方も変わってきます。社内だけでなくお客さんへの想像力も上がります(売上が伸びるかも)。

これは、スキルと言うよりは価値観かもしれません。

人はみんな不完全で偏っているもの。不完全で偏った自分を認め、「正しさ」を手放す。その上で相手に配慮する。自分の偏りを許す。相手の偏りを許す。偏りをお互いに許し合って、その上でどうするかを考える。そうすることで自分の器が広がり、チームとしての打ち手の幅も広がるんじゃないかな。

注意点(業績と組織の両立)

今回の記事では「メガネ」などの内面に焦点を当てた代わりに、経営論としては大きな漏れがありますので、念の為補足します。

まず、こういう話をすると「一人一人の意見が大事だからみんなの声をよく聞いて、誰も不快にならないように&任せなきゃいけない」などという(規範ファーストの)受け取り方をされることがよくありますが、これは大変ヤバイです。私はモラルの話はしていません。ぜひ「構造ファースト」で受け取ってください。

ヤバイ理由としては・・たとえば社内での「椅子の調停」について書きましたが、あの考え方は「お客さんが不在」になりがちです。メンバーが互いの顔色ばかり見て社内調整に夢中になると、顧客から捨てられて業績が落ちて、会社ごと市場から追い出されます。ご注意ください。

以下もうちょっと補足しますが、適宜読み飛ばしてください。

  • 家族や共同体の存在理由は皆のハッピーライフですが、会社の存在理由は違いますよね。メンバー一人一人は自分の人生を生きていますから、皆の快適さを尊重すると、会社のベクトルが分散してパワーロスします。
  • 民主主義社会でのトラブルは「みんなのせい」ですが、経営責任はすべて「社長のせい」です。よって、経営は民主主義ではありません。
  • 権限と責任は一致させるのが組織の原則なので、全責任を持つオーナー経営者には論理上の独裁権があります。しかし、実際は独裁はうまくいきません。一人にできることには限界がある。
  • なので「社長命令をなるべく使わないで権限委譲し、皆から自主的に参加してもらう」というのが参加型経営の本質です。この記事も、その前提に立っています。
  • 働き手は「自分が自分らしく働ければOK」だけど、経営側は経営を成立させないと給料が払えない。この構造を理解・尊重・協力してくれるメンバーを選んで一緒に仕事をして、彼らの働きやすい環境を作りましょう。

中小企業には、主体的な人が育つ環境がある

などと、バランスを取るためにちょっと性悪説っぽいことも書きましたが、実際のところは、弊社もご支援先でも、主体的に仕事しているメンバーが多いなーと思います。

中小企業はメンバー1人1人の存在感が大きく、歯車感が少ないですよね。大企業の人がたまに言う「自分の仕事はあってもなくても変わらない…」と感じるようなことはないかなと。だから主体性が発揮されやすいのかな。

「歯車感」の反対をオーナーシップといいます。日本語での訳語はないようですが、あえていうと「持ち場」でしょうかね。ここが自分の持ち場であるという感覚。「持ち場」は人の主体性を育てます

中小企業の持ち場には、人の主体性を生み出しやすい土壌があるんじゃないかな。主体性というよりは「自分がいないと回らない感」かもしれませんがw

これからの時代、人のせいにしないで、主体性を持って人と協力し、仕事と成果を生み出していける人材は貴重です。そういう人はきっと、職場だけでなく家族や友達にとっても、近隣の地域社会に対してもありがたい存在のはずです。

そんな「持ち場」を作り、人が育つ環境を作り出しているのは、中小企業の経営者のみなさんです。商品を販売し、利益を上げるだけでなく、商売を維持しながら現場のケアもし、育成もして、お客さんに喜んでもらう・・取引先にも気を配る・・。すべてやらないといけなくて、しかも全部自分の責任でやってるわけですから。世の中でとても重要な存在です。

そんな中小企業のリーダーや社長の皆さんを支援するのが我々の存在意義だし、個人的にも大好きなので、応援したい次第です。今回の記事が少しでも参考になり、より平和な経営のお役に立つと嬉しいです。

今年も一緒にがんばっていきましょう!

P.S.

最近、こういったテーマのマネジメントコンサルティングを始めました。「販促は得意でも、組織や体制整備が苦手」「採用してもなかなか人が定着しない…」「スタッフがなかなか育たない」などのお悩みをよく伺います。弊社では、こういった人や組織の問題のご支援もしています。

マネジメントコンサルティングは、比較的大きな企業向けです。小規模な企業の方には育成型のコンサルティングも好評です。今回紹介したような、メンバー育成のための「セオリーや構造から伝えていく」支援をしています。

ご興味がある方はご連絡ください。
2024年スタートダッシュのお手伝いができると嬉しいです!

カテゴリー: EC事業の組織論

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